STEP ① 要求仕様整理
まずは使うシステムの条件を整理します。
設計要素 | 内容 |
---|---|
マイコン種別 | (例) M16C/62P |
主用途 | UART, PWM, RTC等 |
クロック精度要求 | (例) UART ±3%、RTC ±50ppm |
動作温度範囲 | (例) -20〜70℃ |
電源電圧範囲 | (例) 5V±10% |
起動時間要求 | (例) 通電後10ms以内起動 |
🟥 STEP ② 発振素子の選定
✅ ① 発振素子の種別選択
発振素子 | 使用用途例 |
---|---|
内部RC | LED点滅など簡易用途 |
セラロック | UART・PWM用途(精度 ±0.5%) |
水晶 | RTC, USB用途(精度 ±20〜50ppm) |
TCXO | RTC高精度用途(精度 ±0.5〜5ppm) |
✅ ② 公称周波数の決定
- マイコンが対応するクロック範囲を確認
(例:M16Cは最大20MHz程度まで対応) - PLL逓倍使用有無も考慮
✅ ③ セラミック発振器 or 水晶選定の目安
項目 | セラミック | 水晶 |
---|---|---|
精度 | ±0.1〜0.5% | ±20〜50ppm |
コスト | 安価 | 少し高価 |
起動時間 | 数ms | 数10ms |
温度特性 | 多少劣る | 安定性高い |
用途 | 汎用通信、PWM | RTC, USB, 高精度通信 |
🟥 STEP ③ 発振回路方式の決定
✅ ① 発振回路方式
方式 | 内容 |
---|---|
マイコン内蔵インバータ方式 | M16Cなど多くのマイコンが標準搭載 |
外付け発振IC | 周波数精度やドライブ力向上用 |
発振器モジュール | 発振回路内蔵型 (例:TCXOモジュール) |
M16Cでは一般的に内蔵インバータ発振回路+外付けセラミック or 水晶が標準。
🟥 STEP ④ 負荷容量 (CL) と直列抵抗 (Rd) 設計
✅ ① 負荷容量 (CL)
CL = データシート指定値に合わせる
例:水晶 CL=18pF指定なら C1=C2=2×CL−Cstray2C_{1} = C_{2} = \frac{2 \times CL – C_{stray}}{2}
※ Cstray(配線寄生容量)を考慮(通常3〜5pF)
✅ ② 直列抵抗 (Rd)
- 主に水晶使用時に必要(セラロックは通常不要)
- 発振振幅を制限して過励振防止
- Rd目安:
- 数10kHz帯:数10kΩ
- MHz帯:100〜330Ω
🟥 STEP ⑤ 発振起動マージンの確認
✅ 起動判定式:
GmRs>1\frac{G_m}{R_s} > 1
- Gm:発振器の負性抵抗(マイコン依存)
- Rs:水晶等価直列抵抗 (ESR)
※ マイコンのGmはデータシート記載、ESRは水晶データシート記載
→ 起動マージン2倍以上が目標
🟥 STEP ⑥ 配線・実装設計
- 発振子はマイコン端子近くに配置
- C1/C2も最短配線
- グランド面十分確保
- 発振ラインに他信号クロストーク厳禁
- パターンインピーダンス影響最小化
🟥 STEP ⑦ 発振安定性評価
- 温度試験:−20〜70℃、場合により−40〜85℃
- 起動試験:通電→安定発振確認
- 長期安定性:加速寿命試験・MTBF計算
- EMI試験:高調波ノイズ確認
✅ 実設計のポイント整理表
設計項目 | セラロック設計目安 |
---|---|
CL | 通常不要(内部最適化済み) |
Rd | 原則不要 |
発振起動マージン | セラロックは起動しやすい |
温度特性 | データシートで±0.5%確認 |
配線長 | 最短(〜10mm以内) |
EMC対策 | GND面確保・クロストーク防止 |
🧙🏾♂ 重要:水晶とセラロックの大きな違い
| 設計難易度 | セラロック◎ | 水晶○(CL設計要) |
| 起動性 | セラロック◎ | 水晶△ |
| 精度 | 水晶◎ | セラロック○ |
✅ まとめフロー図
使用条件整理 → 発振素子選定 → 回路方式決定
→ CL/Rd設計 → 起動マージン確認 → 配線設計
→ 環境試験 → EMI確認 → 量産設計へ
🧙🏾♂
✅ これが現場での発振回路設計完全手順です。
実際に多くのマイコン設計現場ではこの手順が標準になっています。
👉 もしよろしければ、
「M16C向けセラロック16MHz実配線パターン設計例」
も作成可能です。これは基板設計担当にも非常に役立ちます。
作成しますか?
承知しました。
セラロック(Ceramic Resonator)は水晶振動子と似た用途で使用される発振素子で、主にマイコンのクロック生成に利用されます。水晶より精度は劣るものの、小型・安価・発振回路内蔵といった利点があります。
以下に、セラロックを使用した発振回路の設計手順を詳しく解説します。
🔧【ステップ別:セラロック発振回路の設計手順】
① 要求仕様の整理
- 使用目的:マイコン用クロック、通信用途など
- 必要周波数:例)16 MHz
- 周波数精度許容:例)±0.5%
- 温度範囲、電圧条件
- 外付け部品の制限(コスト・スペース)
② セラロック素子の選定
セラロック(MurataのCSTCE、CSTLSシリーズなど)を以下の条件で選びます:
要件 | 選定のポイント |
周波数 | 必要なクロックに合致(例:16MHz) |
精度 | 通信などでは±0.5%以内必要 |
動作電圧 | マイコンのVccと一致するか確認 |
負荷容量(CL) | マイコン仕様に適合するものを選ぶ |
内蔵コンデンサ | セラロック内蔵かどうか(内蔵型が便利) |
③ マイコンのデータシートを確認
- クロックモード設定(例:外部クロック入力 / セラミック発振子モード)
- 推奨回路例(例:XT1, XT2端子への接続図)
- 推奨負荷容量、振幅、ドライブレベル
- 起動時間や安定性条件
④ 回路図設計(一般例)
セラロックの外部接続回路例(Murata CSTCEシリーズ):
[マイコン XT端子] —-||—-[GND]
セラロック(2端子型、内蔵Cあり)
[マイコン XIN]—-||—-[XOUT]
または(3端子型):
+———–+
XIN ——| |——- XOUT
| セラロック |
GND ——| |
+———–+
- セラロックが3端子型(GND端子付き)で、内蔵コンデンサありの場合、外付けC不要です。
- セラロックが2端子型でコンデンサ非内蔵の場合、マイコンの推奨値(例:2x 15pF)を外付けします。
⑤ 配線とレイアウトの注意
- セラロックとマイコンの接続はできるだけ短く、GNDに近接させる
- パターンインダクタンスや浮遊容量が発振に影響するため、配線は最短・対称が基本
- GNDプレーンを活用しノイズの影響を軽減
⑥ 起動確認と検証
- 発振波形の確認(オシロスコープでXOUT端子を観測)
- 起動時間測定(電源ON→安定波形までの時間)
- 周波数偏差測定(カウンタやFFT機能付きオシロ)
- 動作温度範囲での安定性確認(恒温槽などで)
⑦ トラブルシュート例
症状 | 原因例 | 対処 |
発振しない | 配線長すぎ、容量不適切 | 配線短縮、C調整 |
周波数ずれ | セラロックの精度不足 | 精度の高い製品に交換 |
発振が不安定 | 電源ノイズ、GND不良 | バイパスC追加、GND強化 |
📌補足情報
- 水晶振動子との違い:
- セラロックは精度 ±0.5%程度、水晶は±0.005%まで可能。
- 通信・時計用途なら水晶、タイミング・処理系クロックならセラロックでも十分。
ご希望であれば、MurataやTDKのセラロックの選定品例や、マイコン(例:PIC, STM32)における具体的接続図もご紹介できます。
次に知りたいのは以下のどれですか?
- ✅ 具体的なセラロック製品選定例
- ✅ マイコン別の接続回路例(PIC、AVR、STM32など)
- ✅ 周波数許容誤差の算出方法
- ✅ 外付けコンデンサの具体的な計算方法
どれをご希望でしょうか?
素晴らしい選択です。以下、3項目それぞれについて詳しくご説明します。
✅【1】周波数許容誤差の算出方法
セラロック発振回路におけるシステム全体の周波数誤差は、主に次の要素から構成されます:
🧮 周波数許容誤差の合計算出式:
f_total_error [%] = |f_resonator| + |f_temp| + |f_voltage| + |f_load| + |f_aging|
項目 | 内容 | 目安(Murata CSTCE例) |
f_resonator | セラロック自体の製造誤差(初期精度) | ±0.5% |
f_temp | 温度による周波数変動 | ±0.3% |
f_voltage | 電源電圧変化による誤差 | ±0.1% |
f_load | 負荷容量のずれに起因する誤差(C1/C2不一致) | ±0.1〜0.2% |
f_aging | 経年劣化による周波数変動 | ±0.1%/年 |
✅ 判定方法の例:
例えば、マイコンが±1.0%のクロック誤差まで許容する場合:
f_total_error = 0.5 + 0.3 + 0.1 + 0.1 + 0.1 = 1.1% > NG
→ この場合、±0.3%精度のセラロックにする、温度変動を避ける、精度の高い電源を使うなどの対策が必要です。
✅【2】外付けコンデンサ(CL)の具体的な計算方法
📌 対象:
外部コンデンサが必要なセラロック
(非内蔵タイプ)
📘 前提用語:
- CL(Load Capacitance)…負荷容量、セラロックが設計された容量
- C1, C2 … XIN/XOUT間に接続するコンデンサ
- Cstray … 配線やパッドの寄生容量(典型的に2〜5pF)
🧮 計算式(CLが15pF指定の例):
CL = (C1 × C2) / (C1 + C2) + Cstray
✍️ 例題:CL = 15pF、Cstray = 3pF のとき
15 = (C × C) / (C + C) + 3
= C / 2 + 3
→ C/2 = 12
→ C = 24pF
→ C1 = C2 = 24pFに設定するのが適切。
✅ 実務での注意:
- コンデンサの公差(±5%や±10%)も含めて余裕を見る
- 配線が短い場合はCstrayを2pFで見積もることもある
✅【3】具体的なセラロック製品選定例(Murata)
モデル名 | 周波数 | CL | 精度(初期) | 温度特性 | 備考 |
CSTCE16M0V53-R0 | 16 MHz | 内蔵C | ±0.5% | ±0.3% | 3端子、コンデンサ内蔵、GNDあり |
CSTLS8M00G53-B0 | 8 MHz | 15pF | ±0.5% | ±0.3% | 小型、リフロー対応 |
CSTCR6M00G15L99-R0 | 6 MHz | 内蔵C | ±0.5% | ±0.3% | 2端子、チップ型、内蔵Cタイプ |
選定のポイント:
- 内蔵Cありなら外付け不要 →回路簡素化・省スペース
- CLが指定されているモデルではC1/C2計算が必要
- 周波数安定度が重要なら±0.3%精度品(CSTLSシリーズ等)を選択
🧪 補足:Murata公式カタログリンク(製品仕様書)
以上が、セラロック発振回路における
- 周波数誤差の評価方法
- 外付けC計算方法
- 製品選定例
になります。
🧙🏾♂️次に進めるとすれば、以下のどれにしましょうか?
- 各マイコン(例:PIC、STM32)におけるセラロック接続の実例
- セラロック vs 水晶の性能比較と使い分けガイド
- 周波数誤差を実際に測定する方法(オシロ・カウンタなど)
ご希望の項目をお知らせください。
承知しました。
あなたのようにセラロックや水晶を使用した発振回路設計をする際に重要なのが、発振が安定に成立するかを判断する「発振余裕度(oscillation margin)」です。
🧭 発振余裕度とは?
発振余裕度とは、マイコンやICの内部発振増幅回路において、外部共振子(セラロックや水晶)を使って安定に発振が始まり、かつ維持できるだけのゲインや位相の余裕があるかを定量的に評価する指標です。
🧮 発振余裕度の計算方法(基本式)
✅ 発振条件(バーキューゼンの条件):
ループ利得 |Aβ| ≥ 1、かつ 位相条件 ∠Aβ = 0°(または360°)
ただし、設計では |Aβ| ≫ 1 を目指す必要があるため、「発振余裕度」を以下のように定義します。
✅ 発振余裕度(Oscillation Margin Ratio, OMR)
OMR = |Gm × R| / Rcrit
- Gm:発振増幅器のトランスコンダクタンス(μS)
- R:共振子の等価直列抵抗(ESR)
- Rcrit:発振が可能となる限界の最大ESR(= 1/Gm)
➡ OMR > 5が望ましい(一般的な設計目標)
🧰 実用的な手順(セラロック・水晶共通)
① 共振子のESR(R)を入手
- メーカーのデータシートに記載あり(例:水晶→40Ω typ、セラロック→70Ω typ)
② マイコンのGm(トランスコンダクタンス)を確認
- データシートの「Oscillator Characteristics」欄に記載(単位 μS)
例:
Gm = 50 μS(0.00005 S)
R = 40Ω(水晶)
③ OMRを計算:
Rcrit = 1 / Gm = 1 / 50μS = 20,000Ω
OMR = Rcrit / R = 20,000 / 40 = 500
➡ OMR = 500 > 5 → 十分な発振余裕度!
📊 目安の評価
OMR値 | 評価 |
< 1 | 発振しない恐れあり |
1〜5 | 発振はするが不安定可能性 |
> 5 | 安定に発振可能 |
📌 補足:Gmの無い場合はどうする?
マイコンのデータシートにGm値がない場合は、対応する共振子の最大ESRが明記されている場合があります。
例(Microchip PICの例):
XT mode:最大ESR 100Ω
HS mode:最大ESR 40Ω
この場合、共振子のESRがその最大値より十分に小さいかで判断します。
🔍 実際の例:Murata CSTCE16M0V53-R0 + PICマイコン
- CSTCE16M0V53-R0 の ESR:70Ω typ
- PIC16F1783(XT mode)の最大ESR許容:100Ω
OMR ≈ 100 / 70 = 1.43 → ぎりぎり発振するが、設計マージンとしては少ない
→ HSモード(ESR最大40Ω)を使う or 水晶を使う方が安全
✅ 結論と設計ポイントまとめ
- 発振余裕度は、マイコン内部の増幅性能と共振子のESRで決まる
- 余裕度は5倍以上が推奨(できれば10倍)
- マイコンのGmが不明な場合、最大ESR仕様と実際のESRで比較する
- セラロックは水晶よりESRが高いため、余裕度は小さくなりやすい
次に知りたい内容は以下のどれでしょうか?
- Gmの測定方法や推定方法
- マイコンごとのESR上限一覧(PIC、AVR、STM32など)
- セラロックの発振安定性を上げる実践的テクニック(GND配置、デカップリング)
どれに興味がありますか?