突入電流(Inrush Current)は、電源投入直後に一時的に流れる非常に大きな電流で、特に以下のような回路で問題になります:
- X2コンデンサや電解コンデンサを含む入力EMIフィルタ
- スイッチング電源やトランス
- ACラインに直接接続される商用機器
この突入電流が大きいと、以下の問題を引き起こします:
- サージ電流でリレーやスイッチの接点が焼損
- ブレーカーが誤動作して遮断
- ヒューズの誤溶断
- EMIノイズの発生
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『突入電流防止回路』とは?リレーやサイリスタの駆動方法について
この記事では、電源投入時において流れるラッシュ電流(突入電流)を制限する突入電流防止回路について詳しく説明します。 突入電流防止回路とは 突入電流防止回路とは、電源…
突入電流の基本的な対策方法は以下になります。
方法 | 対策の概要 | 実務での適用例 |
---|---|---|
① NTCサーミスタの直列挿入 | 通電時に高抵抗で電流を抑制し、加熱で抵抗低下 | 家電、照明電源、産業機器 |
② リレー+抵抗のバイパス回路 | 起動時は抵抗経由、通常時はリレーで短絡 | 高出力AC機器、UPS、医療用機器 |
③ ソフトスタート制御(スイッチング制御) | スイッチング電源のPWMを緩やかに増加 | デジタル電源、オフライン電源 |
④プリチャージ回路(電解用) | 高容量電解コンデンサへの電流を一時制限 | 太陽光PCS、大型UPS、EV充電器など |
目次
✅ 実務的な選定フロー(家庭用〜産業用)
1. 電源容量 ≦ 100W程度 →①NTCで十分
2. 電源容量 ≧ 200W以上 → ➁リレー+抵抗(NTCでは過熱の恐れ)
3. PWM制御電源 → ③ソフトスタートIC内蔵を確認
4. 電解容量 ≧ 470µF程度 → ④プリチャージ必須
①NTCサーミスタの直列挿入
NTCサーミスタは低温時は高抵抗(突入制限)、加熱後は低抵抗(通常動作)として働く。
突入電流の計算
- 電圧:AC100V、容量:X2 0.47µF
- 起動時インピーダンス:NTC 22Ω使用
\(\ I_{inrush}=\frac{\sqrt{2}⋅100}{22}≈6.4 A\)
→ 数十Aの突入電流を6A程度に制限可能
NTCの耐量の計算
また、NTCの耐量を計算すると以下になる。
突入時のエネルギー E=\(\frac{1}{2}C\ V^2\)
➡ NTCのエネルギー耐量(J)で選定が必要になります。
➁バイパスリレー+抵抗
バイパスリレー+抵抗は高信頼な突入電流防止対策となる。
- 通電直後:電源は抵抗経由で突入抑制
- 数百ms後:リレーONで抵抗をバイパス(短絡)
項目 | 内容 |
---|---|
高容量電源にも適応可 | 数十Aまで対応可能 |
通常運転で電力損失ゼロ | リレーでバイパスするため |
動作制御が必要 | マイコンやタイマー回路が必要 |
③ソフトスタート制御(スイッチング電源)
🔷 特徴:
- 主にPWM制御ICを用いたDC-DCやAC-DCコンバータで実装
- 電流リミットやPWM制御でゆっくり起動させる
- 通常は**IC内部のソフトスタート機能(SSピン)**で実装される
④プリチャージ回路(電解コンデンサ)
- **大容量電解コンデンサ(数百µF〜数mF)**を使う電源では、
抵抗+リレーによるプリチャージが必要です。 - EVや高圧電源、太陽光インバータで採用
✅ まとめ:突入電流対策 比較表
方法 | 電力範囲 | 特徴 | 実務での使用例 |
---|---|---|---|
NTCサーミスタ | ~150W | 安価・簡単 | 家電、小型ACアダプタ |
リレー+抵抗 | ~3kW以上 | 高信頼、制御回路必要 | UPS、産業装置 |
ソフトスタートIC | ~500W | デジタル電源向け | LED電源、通信機器 |
プリチャージ | 数kW超 | 重負荷向け | EV、PCS |