IEC61000-4-5:雷サージ試験について

要点(前提整理)

  • 試験は「雷サージ(IEC 61000-4-5)」のコモンモード(L・N同相→PE)印加。
  • 破裂するのはYコン(ライン対地)。
  • 現在の繰返し間隔は30 s。60 sに延ばすとどうか?

結論(短答)

  • 60 sに延ばす価値はあります。IEC 61000-4-5はサージの時間間隔を「1分(=60 s)以下」とし、もし1分より速い間隔だと壊れるが、1分間隔では壊れない場合は1分間隔の結果を優先すると明記しています。したがって、30 s→60 sへ変更は規格整合であり、平均電力や残留電荷の影響が原因なら破裂しにくくなります。 
  • ただし、**単発パルスで即破裂するような“ピーク過応力”が原因なら、間隔を延ばしても根本解決にはなりません。**この場合は部品と回路の見直し(定格/クランプ構成/容量値など)が必要です。

なぜ間隔延長で改善し得るのか(実務視点)

  1. 平均パワー・自己発熱の低減
  • サージ素子(Yコンや並列の保護素子)の平均パワー処理は弱いことが多く、規格注記も「2発間の時間はEUT内蔵保護素子に依存」と記載。60 s化は熱的マージンを増やします。 
  1. 残留電荷の抜け時間確保
  • コモンモード印加後、Yコンに残留電荷があると次パルスが重畳しストレス増。60 sならRCでほぼ完全放電できる可能性が高い(Yは大きい放電抵抗を持たないので、機器側で放電パスが弱いと30 sでは十分でないことがあります)。これは経験則です(推測)。
  1. 規格上の“正式条件”に合わせる
  • IEC 61000-4-5は繰返し「最大1回/分」、かつ各位相/極性で5回以上を基本としており、評価の優先ルールも明確です。試験計画の妥当性が上がります。 

それでも壊れる場合の“本質的”対策(優先度順)

A. Yコンの等級・インパルス耐量の再確認

  • Y2(一般家庭向け)よりY1(高サージ環境向け)の方がインパルス耐量が高い(多くのメーカーでY1:8 kV、Y2:5 kVの衝撃電圧試験に合格が目安)。採用シリーズのデータシートでIEC 60384-14に基づく**Impulse Voltage(V_peak)**や耐久試験条件を必ず確認してください。 

B. 容量値の見直し(I = C·dV/dt、E = ½·C·V²)

  • 初期立上りでのピーク電流は I ≈ C·(dV/dt)。例:2 kV(1.2 µs)・C=4.7 nF → dV/dt≈1.67×10^9 V/s ⇒ I≈7.8 A。容量が大きいほど電流が増え、内部発熱・機械応力が増大。必要最小のY容量へ見直し。
  • 目標ノイズ(CM)減衰に対してコモンモードチョークで主に落とし、Y容量は安全・漏れ電流制約内の最小にするのが基本戦略。

C. 一次保護の追加/配分(コモンモード用SPD)

  • L-PE、N-PEにMOV(酸化亜鉛バリスタ)やGDTを配置し、Yコンへ到達する電圧・電流を一次側でクランプ。61000-4-5の2 Ω源インピーダンス前提のコンビネーション波で生じるストレスを分散します。 

D. クランプ協調

  • MOV+GDT+Yコンの順守べき関係:動作電圧(V_BD)、クランプ電圧(V_C)、残留電圧(let-through)を昇順に配置し、Yコンが受けるV、Iを下げる。製品規格のレベル(例:L-PE 2 kV/4 kV 等)に合わせて設計。IEC Annexの**最低免疫レベル(L-Gは1 kV以上)**も参照。 

E. 試験間隔は“1分”を厳守

  • 規格本文に**「1分より速いと故障、1分では故障しないなら1分の結果を採用」**とあるため、評価・量産判定は必ず60 s基準で。 

簡易チェックリスト(現場で即実施)

  1. 繰返し間隔:30 s→60 sへ(規格整合)。 
  2. 試験レベルと結線:対象製品規格のL-PEレベル(2 kV/4 kVなど)とCDN結線確認。 
  3. Y等級:現行品がY2ならY1へ格上げ検討(データシートのImpulse Voltage参照)。 
  4. 容量最適化:必要最小のnFに落とす(I=C·dV/dt低減)。
  5. 一次保護:L-PE/N-PEにMOV/GDT追加、クランプ協調。
  6. 温度管理:連続印加前後のケース温度・リーク変化モニタ(平均パワー影響を見る)。
  7. 残留電荷:放電経路の有無確認(必要なら高抵抗で安全に放電パスを設ける—漏れ電流規制に注意)。

参考の一次情報

  • IEC 61000-4-5(サージ免疫試験):繰返し「1分以下」、優先ルール、2 Ω出力インピーダンスなど原文。 
  • IEC 60384-14(安全コンデンサ)に基づくY1/Y2のインパルス試験値(メーカーDS例:Y1=8 kV、Y2=5 kV)。 

ミニ計算(ストレス感度の目安)

  • 条件(例):C=2.2 nF、V_peak(対地)=2 kV、波形1.2/50 µs。
    • 初期電流 I_pk ≈ C·(dV/dt) ≈ 2.2e-9×(2000/1.2e-6) ≈ 3.7 A。
    • 瞬時蓄積エネルギー E=½·C·V² ≈ 0.5×2.2e-9×(2000)² ≈ 4.4 mJ。
      → CやVを上げると I と E が線形/二乗で増え、破壊リスクが急増。容量ダウンサイジングや一次クランプで抑制すべき理由です。

まとめ

  • 60 s化は規格的にも妥当で、熱・残留電荷起因の累積ダメージなら効果的。
  • しかし一発破裂=ピーク過応力は部品等級・容量・クランプ協調の設計課題。そこを正すのが本筋です。必要なら、現行回路図(Y容量・等級、MOV/GDTの有無、CMチョーク構成、試験レベル)をいただければ、**数値設計(クランプ選定と波形通過計算)**まで落とし込みます。
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