測定対象に適したプローブ種類の選定方法

こちらの記事では測定対象ごとに適したプローブの選定方法を記載致します。

目次

プローブ選定フロー図

以下のフロー図の質問に答えると測定したい信号に適したプローブが分かります。各STEPの詳細は以降の章で説明致します。

+-------------------------------------------------------------------+
|     STEP1.電圧or電流orEMI/空間場or複数デジタル信号どちらを測る?      |
+-------------------------------------------------------------------+
   /           \          \                \   
 |           \      +--------------------------+    +----------------------------+                    
  電圧           電流     | STEP3.EMI/空間場の場合  |       | STEP4.複数デジタル信号の場合 |
 |            \     +--------------------------+    +---------------------------+
 |               \           
 |           【 電流プローブ 】             
 |            (ホール/CT/シャント)                         
 |
 |                                
+---------------------------------+
|  STEP2.測定点は接地されている?   |
+---------------------------------+
        /                 \
      YES                  NO
      /                      \
+-----------------------+     【 差動 or 絶縁 】 
| STEP5.電圧レベル確認   |               
+-----------------------+         
      /           \                  
 高電圧(>1kV)    低〜中電圧               
    |                 \           
    |                   \        
    |                   +-------------------------+
    |                   | STEP6.周波数帯域確認     |
    |                   +-------------------------+
    |                     /                        \
    |               高速 (>100MHz)                  低速
    |                   |                             |
    v                   v                             v
【高電圧プローブ】 +---------------------------+  +---------------------------+           
          | STEP7.能動FET/Z0/50Ωプローブ|    |   STEP8.受動10× or 差動   |
            +----------------------------+   +---------------------------+
    
    

STEP1.電圧or電流orEMI/空間場or複数デジタル信号

測定点が電圧の場合は『STEP2.測定点が接地されているかどうかを確認する』に進みましょう。
測定点がEMI/空間場 の場合は『STEP3.
測定点が複数デジタル信号の場合は『STEP4.
測定点が電流の場合は以下の確認を行い、適切なプローブを選定しましょう。

1.DC成分の測定が必要かどうか

まず、測定対象がAC成分のみなのかDC成分を含むかで使用するプローブの種類を分けましょう。
AC成分のみを測定する場合はCTまたはRogowskiを使用しましょう。『2.CTとRogowskiの判断フロー』に進んでください。
DC成分を測定する場合はホール型またはシャント型を使用しましょう。『3.ホール型とシャント型の判断フロー』に進んでください。

  • DC測定が要るか/挿入損失を許容できるかで大枠が決まります。ホールはDC~広帯域、CT/RogowskiはACのみ、シャントは直列抵抗が入るが高精度が原則です。(キーサイト)

2. CTとRogowskiの判断フロー

CT(カレントトランス)ロゴスキー(Rogowski)の判断フローは以下のようになります。

STEP1:必要帯域・立上り(di/dt)はどのくらい?
  ├─ 超高速/大パルス(ns~µs、di/dtが非常に大) → Rogowski 優先
  └─ 低~中速(50/60Hz~数百kHz程度) → STEP2

STEP2:測りたい電流レンジは?
  ├─ 数十A~数kA、広レンジ(クレスト高) → Rogowski 有利
  └─ mA~数十A、感度とS/N重視 → CT 有利

STEP3:低周波の正確さ(50/60Hzや数Hzまで)をどこまで重視?
  ├─ 低周波のドロップ/ドリフトは極力少なくしたい → CT
  └─ 許容できる(適切な積分器設計で補う) → Rogowski も可

STEP4:設置要件は?
  ├─ 太い母線・多芯で回し込みたい、狭所・高電圧で安全第一 → Rogowski(柔軟コイル)
  └─ 割コア/クランプで足りる、位置決めしやすい → CT

技術的な違いは以下のようになります。下記を元に上記判断フローを作成しております。

CT(カレントトランス)
  • 原理:I_pri の磁束を鉄心で結合→二次側に電流生成。ACのみ
  • 強み
    • 高感度・低ノイズ(mA~A領域に強い)
    • 位相特性が素直(帯域内)
    • 50/60Hz の実効測定が容易(積分器不要)
  • 弱み/設計注意
    • 低域限界:f_L ≈ R_b / (2π·L_m)(L_m:励磁インダクタンス、R_b:負荷)
      → f_Lより低いと出力が落ちる(ドロップ)
    • コア飽和:大ピーク・低周波で飽和しやすい(クレスト高い波形は注意)
    • 高域限界:漏れL×巻線Cで頭打ち(数百kHz~数MHz程度)
Rogowski(空芯コイル)
  • 原理V_coil ∝ di/dt(相互インダクタンス M)。積分回路で電流波形に戻す。
  • 強み
    • 飽和しない(空芯)→ 超大電流・超高 di/dtに強い
    • 広ダイナミックレンジ柔軟で安全(太い母線や高電圧周りに有利)
    • 高周波・立上りの再現に強い
  • 弱み/設計注意

それぞれのプローブの特徴を表にしています。こちらも参考にしてください

観点CTRogowski
周波数(主用途)50/60 Hz~数百kHzkHz~数MHz(下限は積分器次第)
立上り/高周波中~高非常に高(超高di/dtに最適)
大電流/クレスト高飽和注意飽和なしで強い
低電流/高感度得意(mA~)苦手(ノイズ/感度)
低周波の正確さ得意(帯域内)積分器ドロップとドリフトに注意
設置性/安全クランプ/割コア柔軟コイルで取り回し最良
位相フラット帯域内で素直積分器設計の出来次第
コスト一般に安~中中~高(高品質積分器)
CTとRogowskiの使い分けマトリクス

3.ホール型とシャント型の判断フロー

それぞれのプローブの特徴とイメージです。

種類特徴イメージ
ホール型プローブワイヤに流れる磁界を非接触で測るクランプメーターのように“はさむだけ”
シャント抵抗+差動計測ワイヤに小さな抵抗を直列に入れて電圧から電流を求める電流センサーを回路に組み込む方式

ホール型(AC/DCクランプ)シャント+差動計測の判断フローは以下のようになります。

STEP1:安全・取り付け方法
  ├─ 高電圧・CAT要件・配線切れない → [ホール型]
  └─ 低電圧・センス専用パスあり → STEP2

STEP2:どれくらい正確に測りたいか?
  ├─ 総合 ≤ 0.5%(位相含む) → [シャント+差動]
  └─ 総合 1~3% で可 → STEP3

STEP3:どれくらいの電圧降下を許せるか?
  ├─ Vdrop 許容(例:数十mV)・放熱設計可 → [シャント]
  └─ ほぼ 0V 必須(系に影響不可) → [ホール]

STEP4:帯域・立上り
  ├─ DC~数100kHzで十分 → どちらでも良い(上位優先で決める)
  └─ DC~MHz級が必要 → [シャント(低ESL/良レイアウト)]

各STEPの詳細は以下になります。

STEP1:安全/接続制約(最上位判定)

まずはどこまで安全に触れるかについて判断しましょう。
ホール型は非接触なので、触るのが危ない場所でも安全に使えます。
シャント型は配線に直接入れるため、安全電圧でなければ危険です。

状況選ぶプローブ
高電圧がかかっている・配線を切れないホール型(はさむだけで安全)
低電圧で、回路を少し変更できるシャント型(正確に測れる)

より詳しく判断するにはいかのように考えます。

入力

  • 被測定回路の電圧/CAT(CAT II/III/IV、最大電圧)
  • 配線の切断可否(直列挿入OK/NG)
  • 絶縁要件(人体・設備リスク、漏電/短絡禁止)

判定

  • 直列挿入NG高電圧/CAT厳格絶縁必須ホール型(非接触)
  • 直列挿入OK低電圧/センスパスありシャント候補へ進む

出力(指示)

  • ホール選定時:CAT/電圧定格、クレスト余裕(×2〜3)、必要帯域の3〜5倍確保
  • シャント候補時:次のSTEP2へ(精度判定)

STEP2:必要精度(ゲイン+オフセット+温度+位相)

次にどれくらい正確に測定したいかどうかで判断しましょう。
ホール型は温度や位置で誤差が出やすく、長時間測定でゼロ点がズレやすいです。
シャント型は温度管理と差動アンプをしっかり設計すれば、かなり正確に測れます。

精度の目安選ぶプローブ
誤差1〜3%でもOK(ざっくり)ホール型
誤差0.5%以下で測りたい(正確)シャント型

STEP3:どれくらいの電圧降下を許せるか?

シャント抵抗は「電圧を少し消費して電流を測る」仕組みなので、
電圧が下がりすぎると機器に悪影響を与えます。たとえば10Aを測りたいときに、50mVの電圧降下を許せるなら
R = 50mV ÷ 10A = 0.005Ω(5mΩ)の抵抗を入れればOK。

  • 許容ドロップ・発熱・温度上昇(TCR含む)を満たせるRが置ける → シャント続行
  • どうしてもmV級以下で成立しない/温度上昇が大 → ホールへ

STEP4:測る信号のスピード(帯域)

測定する信号の帯域によっても判断できます。
ホール素子は高速になると磁界が追いつかず、波形が少し遅れて見えます。
シャント抵抗は抵抗なので、速い変化にも対応できます(配線を短くするのがコツ)。

信号の速さ選ぶプローブ
ゆっくり(DC〜100kHzくらい)どちらでもOK
速い(100kHz〜MHz級)シャント型が有利

判定

  • DC〜100 kHz級:どちらも可(他STEP優先で決定)
  • >100 kHz〜MHz級シャント優位(実装品質が決め手)

STEP2.測定点が接地されているかどうかを確認する

オシロの一般入力は下記の説明の通り、筐体アースに結ばれているので、片側接地の点にしか安全に当てられません。フローティング点や2点間電位差を片側接地の受動10×で測るとその点が強制的に 0 V(大地電位)にされ、短絡・感電・装置破壊のリスクがあります。

参考:プローブの基礎 横河計測株式会社

そのため、測定点の片方が接地ノード(GND=0V)に当てていればSTEP2へ進み
測定点がフローティング(どちらも0Vでない場合)は差動プローブか絶縁プローブを使用しましょう。
それぞれの特徴は以下のようになります。

①差動プローブ(Differential Probe)の特徴

■ 原理

  • 2 本の入力端子 (+, –) 間の電圧差のみを増幅し、共通モード電圧(両端に共通に乗る電圧)は抑制(CMRR:共通モード除去比)する。
  • 内部的には差動アンプ方式。

■ 得意分野

  • 中低電圧〜数百 V
  • 周波数帯域広い(数十 MHz〜数百 MHz 以上)
  • 測りたい点が“基板上の2点間”で、共通モード電圧が適度に小さい場合
    • 例:オペアンプの+入力–出力、SMPS の Vsw–GND 間など
  • 高速信号やリップル観測に強い

■ 制約

  • 最大共通モード電圧に限界(定格を超えると破損)
  • CMRR が有限 → 高い dV/dt(>50 kV/µs など)ではノイズ混入あり
  • ケーブル長は比較的短く、ノイズ耐性は中程度

➁絶縁プローブ(Isolated Probe / 光アイソ)の特徴

■ 原理

  • 入力信号をアンプで受け、光ファイバや絶縁方式でオシロ本体へ伝送する。
  • 入力部が完全にオシロから絶縁される。

■ 得意分野

  • 高電圧・高エネルギー回路
    • IGBT ゲート波形、インバータ相間電圧、鉄道・産業機器の数 kV 級信号
  • 超高 dV/dt 環境(100 kV/µs 超のスイッチング)でも安定
  • 大きな共通モード電圧が存在しても安全
  • 長尺ケーブルでもノイズ混入が少ない

■ 制約

  • 帯域は差動より狭いことが多い(数十 MHz〜数百 MHz 程度)
  • 入力オフセットやドリフトが残る場合あり → 測定前にゼロ調整が必要
  • 価格が高い

③差動プローブと絶縁プローブの使い分けフローチャート

差動プローブと絶縁プローブどちらを使うかはそれぞれの特徴を踏まえたうえで下記のように決めましょう。

測定信号はフローティングか?
  NO → 通常の受動/能動プローブでOK
  YES → 次へ

測定信号の最大電圧は?
  〜数百 V 程度 → 次へ
  1 kV 超え → 絶縁プローブ推奨(安全カテゴリ重視)

共通モード電圧(CMV)は?
  小さい(数十 V〜数百 V 程度) → 差動プローブで十分
  大きい(数百 V〜kV 級) → 絶縁プローブ推奨

波形の帯域/立ち上がり時間は?
  高速(>100 MHz、ns オーダーのエッジ) → 差動プローブが有利(帯域が広い)
  中速以下(数 MHz〜数十 MHz、µs オーダー) → 絶縁でも十分

スイッチングの dV/dt は?
  中程度(〜数 kV/µs) → 差動でも対応可能(CMRR を確認)
  高い(>50〜100 kV/µs) → 絶縁プローブが安全確実

用途は?
  - ゲートドライブ観測(20〜30 V) → 差動プローブ(高速・低電圧タイプ)
  - バス電圧や相間電圧(数百 V〜kV) → 絶縁プローブ
  • 差動プローブの限界を超える高 CMV・高 dV/dt では絶縁が必須
  • 絶縁プローブは安全性最優先、ただし帯域と精度は差動に劣る
  • どちらもゼロ調整が重要(DC ドリフトやオフセットの補正)
  • IEC 61010 やメーカーの安全カテゴリ表記(CAT II/III/IV、最大電圧)を必ず確認する。

STEP3.EMI/空間場に進んだ場合

EMI/空間場に進んだ場合の判断フローは以下のようになります。

STEP1 目的は?
  A. ノイズ源の特定/対策評価(近傍調査) → STEP2
  B. 規格適合の見通し(予備評価~本試験) → STEP5

STEP2 どの“場”を見たい?
  H(磁界:ループ電流・スイッチング近傍) → 近傍Hプローブ
  E(電界:配線・筐体の電位変動・漏れ) → 近傍Eプローブ   → STEP3

STEP3 周波数レンジと空間分解能は?
  ・数十kHz~数百MHzで「場所」を特定 → 小ループ(H)/小電極(E)
  ・~GHz帯まで見たい/広い範囲を走査 → セット品のワイドレンジ・プローブ
  ※ プローブは“向き/距離/サイズ”で感度が大きく変わる(相対評価)。 → STEP4 :contentReference[oaicite:1]{index=1}

STEP4 解析器は?
  ・ピーク探し/周波数同定:スペアナ or EMIレシーバ
  ・時間相関(スイッチング同期):オシロ(FFT/タイムコリレート)
  → 必要なら“両方”使う(最近のMSOはEMIトラブルシュート手順が整備)。 :contentReference[oaicite:2]{index=2}

STEP5 規格視点は?
  ・放射“エミッション”の限度値(CISPR 32など)→ 予備評価:近傍+遠方の相関を掴む
  ・放射“イミュニティ”評価(IEC 61000-4-3)→ 試験所での本試験が必要
  (ベンチではあくまで**プリコンプライアンス**) :contentReference[oaicite:3]{index=3}

選び方の目安(近傍プローブ)

  • H(磁界)プローブ:スイッチング電源のホットループ、トランス/インダクタ周り、ケーブルの共通モード電流のホットスポット探しに最適。
  • E(電界)プローブ:配線・コネクタ・筐体のスロット/継ぎ目の漏れ、ハイインピ配線のdV/dt起因放射に有効。
  • サイズ:小型ほど空間分解能↑(ただし感度↓)。探索→小、全体傾向→中~大を使い分け。 tek.com+1

典型セット(プリコンプライアンス)

  • 近傍プローブ(H/E)スペアナ/EMIレシーバ(限度線内蔵SWが便利)+オシロ(FFT・同期観測)
    近傍は“相対測定”で原因位置と周波数を掴み、必要に応じてLISN・クランプで伝導も確認。 cdn.rohde-schwarz.com+1

現場Tips

  • 向き/距離/位置を一定化(テープで治具化)→対策前後比較が正確に。 tek.com
  • H→ループ最小化/E→シールド・接地の連続性改善が効く(原因に応じて打ち手を選ぶ)。 rohde-schwarz.com
  • 近傍→遠方の絶対換算は困難(だから近傍は“原因特定・相対比較”の道具)。 tek.com

STEP4.デジタル多chに進んだ場合

STEP1 同時に見たいチャネル数は?
  ~8/16ch:MSOのロジック入力で足りる
  32ch~:専用ロジックアナライザ(LA)を検討  → STEP2 :contentReference[oaicite:10]{index=10}

STEP2 論理レベルは?
  TTL/CMOS(1.8/3.3/5V) → 汎用ロジックプローブ
  差動(LVDS/CML/PECLなど) → 差動ロジックプローブ(閾値/終端要件)  → STEP3
  (LVDSの電気仕様はTIA/EIA-644参照) :contentReference[oaicite:11]{index=11}

STEP3 必要な解析は?
  ・プロトコルデコード(I²C/SPI/UART/CAN…)
  ・タイミング解析(セットアップ/ホールド、相関)
  → 対応デコードSW/トリガ機能の有無で本体/オプションを選定 :contentReference[oaicite:12]{index=12}

STEP4 立上り・周波数は?
  ・数十MHzまで:一般ロジックプローブでOK
  ・>100MHz相当/エッジ>1 V/ns:**配線短縮・専用ヘッド or 差動**を選択(帯域・負荷に注意) :contentReference[oaicite:13]{index=13}

STEP5 プロービング法は?
  ・フライングリード(可搬・負荷大きめ)
  ・コネクタポッド(信頼性↑・SIにやさしい)
  ・グランドは複数点/最短で戻す(高エッジでは重要) :contentReference[oaicite:14]{index=14}

選び方の目安

  • MSOで十分?
    アナログ波形も同時に見たい/ch数が16以下 → MSO+ロジックプローブが効率的。
  • 専用LAが必要?
    32~数百ch、複雑バス、深い状態解析 → LA+専用プローブ。 Keysight
  • 差動I/F(LVDS等)は“ロジック用差動プローブ”を使い、終端・Vthを規格に合わせる。 Texas Instruments

代表的な技術要件(チェックリスト)

  • しきい値(Vth)設定:TTL/CMOS/ECL/LVDSごとに適正値を設定。比較器で0/1を判定。 download.tek.com
  • 入力負荷:1chあたり数pFでもエッジに効く。リード短縮/専用ヘッドでSI劣化を抑える。 download.tek.com
  • トリガ:パターン/シーケンス/プロトコル・トリガがあるとデバッグ効率が飛躍的に向上。 Keysight

現場Tips

  • ロジックだけでは“波形品質”は分からない(オーバー/リンギング等)。
    → 重要線はアナログプローブ(能動FET等)で並行観測するのがベストプラクティス。
  • 高速差動I/Fアナログ差動プローブでSI確認+ロジック差動でデコード、二刀流が強い。

STEP5.電圧レベルが高電圧かどうかを確認する

プローブには最大定格とCAT適合があり、これを超えるとオシロスコープやプローブの破損、感電火災リスク、誤測定につながります。以下のフローで判定を行います。

電圧レベルの判定(最大電圧 + CAT 確認)
     ↓
電圧 > 定格 or CAT 不足?
     ├─ YES → 高電圧プローブ
     └─ NO  → STEP6.周波数帯域確認へ(波形忠実度重視)

上記の確認を以下のステップで行っていきます。

① 最大電圧(実効値)の確認

  • DC の場合
    測定点間の最大 DC 電圧値
    (例:DC バス 400 V)
  • AC の場合
    実効値 × √2 = ピーク値を基準にする
    (例:AC100V → 約141V、AC200V → 約282V)
  • パルス波形
    瞬間ピーク電圧を見積もる(例:スイッチングノード 400 V + オーバーシュート → 450〜500 V)

② 過渡サージ(トランジェント)の考慮

  • 短時間に発生する過電圧(雷サージ、スイッチング)を加味します。
  • 通常、定格電圧 × 1.5〜2倍を想定。
    • 例:400 V 系なら瞬間的に 600〜800 V を見込む。
  • 規格では「過渡過電圧カテゴリー(OVCAT)」と呼ばれます。

③ 安全カテゴリ(CAT)の特定

IEC 61010(計測器の安全規格)では、測定系の位置とエネルギー源によって以下の 4 カテゴリに分類されます。

カテゴリ測定場所の例主な用途許容サージエネルギー
CAT I低エネルギー内部信号(電子回路、機器内部)信号レベル測定最小
CAT IIコンセント等に接続される装置の 2 次側家電・電源出力中程度
CAT III分電盤・配電盤・固定配線回路産業用装置、インバータ一次側大きい
CAT IV屋外・建物引込口・配電線受電盤、柱上機器最大

🔸 判定例

測定対象CAT分類想定最大電圧推奨プローブ
MCU 5V電源ラインCAT I5V通常受動/能動
ACアダプタ出力 12VCAT II12V通常受動
インバータ DCバス 600VCAT III600V高電圧/差動/絶縁
商用AC入力(100V〜240V)CAT II300V高電圧/差動
受電盤・三相400VラインCAT IV400V〜600V絶縁プローブ(CAT III/IV対応)

④ プローブ/オシロの定格との照合

  • プローブ仕様書に記載されている下記の 2 要素を必ず確認:
    • 定格電圧(例:600V RMS、1kV Peak)
    • 安全カテゴリ(例:CAT II 600V、CAT III 300V)
  • 両方満たして初めて安全に使用可能。

例:
「600 V CAT II」対応のプローブは、商用 AC100/200V の二次側(コンセント側)までが限界。
配電盤(CAT III)や屋外(CAT IV)では使用不可。

測定対象実効電圧トランジェントCAT安全率考慮必要定格
AC100V系出力100V RMS約 150V peakCAT II×1.5≥300V CAT II
インバータDCバス600V DC900V peakCAT III×1.5≥1kV CAT III
三相400V相間400V RMS600V peakCAT III×1.5≥1kV CAT III
屋外引込線400V RMS1000V peakCAT IV×2≥2kV CAT IV
実務的な判定例

⑤ 余裕をもたせた選定

  • 実務では、定格電圧の 1.5〜2倍の安全率を持つ機種を選ぶのが鉄則。
    • 例:400V 系信号なら、少なくとも 600V 定格のプローブを使用。
  • 絶縁距離・漏洩電流・トラッキング距離も IEC 規格に準拠した設計のものを選定する。
判定要素安全優先(→絶縁/高電圧)周波数優先(→帯域設計)
測定電圧(DCまたはピーク)>300V (CAT II) / >600V (CAT III)≤300V 程度
共通モード電圧数百V〜kV級数十V以下
測定対象ACライン、インバータ、モータ駆動MCU、FPGA、ロジック信号
電源系統商用電源/配電系信号/制御系
dV/dt耐量要求>50 kV/µs(高エネルギ)<10 kV/µs(制御信号)
安全カテゴリ (CAT)III, IV(配電盤やモータ)I, II(電子装置内)
測定者安全性リスク感電・火花リスクあり低リスク
プローブ構造絶縁・高耐圧・光伝送低容量・高速・高帯域
具体的な数値基準
測定対象最大電圧判定分岐先理由
MCU GPIO信号3.3V安全範囲→ 周波数へ波形忠実度優先、帯域重視
DC/DC出力5V5V安全範囲→ 周波数へ帯域20MHz程度で十分
SMPS一次側Vsw400V + ノイズ600V高電圧→ 安全へCAT III領域、絶縁/高耐圧必須
モータU–V相間600V + dV/dt 50kV/µs高電圧→ 安全へ絶縁でなければ危険
AC100V商用141Vpeakギリギリ→ 安全優先CAT II 300Vだがサージ余裕必要
高速デジタルクロック(1GHz)1V安全範囲→ 周波数へ波形忠実度と立上り時間が支配要因
実務例での分岐
  • 「CAT × 電圧」だけで安全性を決めないこと。→ 400VでもスイッチングノードならdV/dtが高く、帯域より安全を優先する。
  • 安全範囲内なら“波形再現性”を最大化。→ 立上り時間から帯域算出(0.35/tr)。
  • 両方当てはまる場合(例:400V高速スイッチング)高帯域差動 or 光絶縁プローブで両立。

④高電圧プローブに進む場合のチェック項目

チェック項目意味対応策
定格電圧超過リスクプローブ破損・感電防止定格×1.5〜2倍の余裕を持つ
CAT適合電源系の過渡サージ耐性測定位置ごとに CAT II / III / IV 判定
絶縁距離/漏洩トラッキング防止絶縁/光アイソ構造のプローブ
共通モード除去性能(CMRR)高dV/dt環境でのノイズ除去絶縁/高CMRR差動プローブ
オシロ側の耐圧入力破壊防止必ずプローブとセットでCAT確認

STEP6.周波数が高周波か低周波かを確認する

高周波信号を測る目的か” それとも “中低速の一般信号を測る目的かによって判断します。
以下が判断フローになります。

周波数/立上り時間の判定
│
├─ 高速(MHz~GHz級) or 立上りが速い信号(ns単位)
│     → STEP7.能動FET / Z0 / 50Ωプローブ系 へ
│
└─ 低~中速(kHz~数十MHz級) or 立上りが遅い信号(μs~ms)
      → STEP8.受動10× / 差動プローブ系 へ

以下から詳細な判断基準について記載いたします。

信号速度立上り時間周波数の目安該当プローブ
超高速<1ns>350MHz能動FET・Z0・50Ω系
高速1~5ns70~350MHz能動FET/Z0系
中速5ns~1µs0.35MHz~70MHz受動10×/差動
低速>1µs<0.35MHz受動10×/差動

現場での判断ポイントは以下になります。

現場での判断ポイント
  • 立上りがnsオーダーなら、必ず能動FET/Z0/50Ω側へ。
  • 測定点が接地されていなければ、差動側へ。
  • 低速・安全・汎用測定なら、まず10×から試す。
  • 波形の崩れ(リンギング・オーバーシュート)=容量負荷過多のサイン。能動FETに切り替え。
  • Z0/50Ω系ではDC見えないので、信号線DCオフセットは別途測定。

STEP7.能動FET / Z0 / 50Ωプローブ系

【分岐A】高速信号系
↓
STEP1:観測対象の周波数/立上り時間を確認
   ├─ 数百MHz~GHz、nsオーダー → STEP2
   └─ ~100MHz → 分岐B(受動/差動)へ戻る

STEP2:DC成分を観測したいか?
   ├─ YES → FETプローブへ
   └─ NO(AC成分だけで良い) → STEP3

STEP3:信号線のインピーダンスは整合(50Ω)か?
   ├─ YES → Z₀プローブ or 50Ω同軸測定へ
   └─ NO(高インピ or オープンノード) → FETプローブへ

STEP4:波形忠実度 vs 実装性で決定
   ├─ 最も忠実な波形・高速クロック → Z₀ or 50Ω
   ├─ 高インピ信号や小信号ノード → FETプローブ
   └─ 実験・実装簡単・安価に確認 → Z₀プローブ(簡易高速測定)

③FETプローブの特徴

判断項目選定基準実務の目安
1️⃣ DC含む信号か?DC成分が必要ならFET固定(Z₀ではACカット)クロックの平均値、PLL制御電圧、波形オフセットなど
2️⃣ 信号ノードが高インピか?高入力抵抗必要(>100kΩ)ならFETCMOS入力・PLL・センサー端子など
3️⃣ 波形スピードは?~1GHz対応FET(典型100MHz〜1GHz)を選定立上り1ns未満でも忠実に観測
4️⃣ 電圧レンジ±5〜15V以内(過電圧注意)過大入力にはアッテネータ併用
5️⃣ 環境ノイズ敏感な場所・小信号優先高S/N比・入力容量0.3〜1pF

④Z0プローブの特徴

判断項目選定基準実務の目安
1️⃣ 信号線が50Ω伝送線路か?YESならZ₀最適SMA/BNC基板・マイクロストリップ・RF線路
2️⃣ DCを観たい?観ない(ACのみ) → Z₀可ACカップリング専用
3️⃣ 波形忠実度優先?立上り0.3ns未満など → Z₀必須反射最小・波形歪み最小
4️⃣ 測定回路の終端50Ω終端必要ケーブル末端に終端抵抗
5️⃣ 信号振幅数百mV〜数VRF出力、信号線調整に最適

⑤50Ω同軸プローブの特徴

判断項目選定基準実務の目安
1️⃣ SMA/BNC直結可能か?可能なら最も正確DCは見えない(AC結合)
2️⃣ 信号線が完全50Ω整合か?YES → 最良波形忠実度RF・発振回路・整合確認
3️⃣ 波形重視か電圧絶対値重視か?波形忠実度重視 → 50Ω同軸が最適振幅誤差<2%レベル
4️⃣ 帯域数GHz対応

STEP8.受動10× / 差動プローブ系

【分岐B】一般・中低速信号系
↓
STEP1:信号の接地状態を確認
   ├─ 接地されている(GND共通) → STEP2(受動10×)
   └─ 接地されていない(フローティング) → STEP3(差動)

STEP2:信号の帯域は?
   ├─ ~50MHz程度 → 受動10×でOK
   ├─ 50~200MHz → 高帯域受動 or 能動FETへ再検討
   └─ 高周波化で波形崩れ → 分岐Aへ戻る

STEP3:差動信号(±)の電圧レンジを確認
   ├─ ±数十V以内 → 標準差動プローブ
   ├─ ±数百V~kV級 → 高電圧差動プローブ
   └─ 共通モードが大(>100V) → 絶縁型差動へ

⑥受動10×プローブの特徴

判断項目選定基準実務の目安
1️⃣ 信号が接地基準か?YES → 受動10×
2️⃣ 帯域~50MHz(高帯域型なら300MHz)
3️⃣ 耐圧数百V(CAT II/III)
4️⃣ 立上りμs~数十nsまで
5️⃣ 波形負荷高インピなら注意(容量10~20pF)

⑦差動プローブの特徴

判断項目選定基準実務の目安
1️⃣ 測定点が接地されていないか?YES → 差動プローブ必須
2️⃣ 信号の差電圧(V_diff)範囲±数十V → 標準差動 / ±kV → 高電圧差動
3️⃣ 共通モード電圧(V_cm)数十V~数百Vまで耐圧確認
4️⃣ 必要帯域10MHz~100MHz(製品仕様で選定)
5️⃣ CMRR(ノイズ除去性能)周波数帯で十分高いもの(>80dB推奨)
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