概要
CRスナバ回路は、主にスイッチング回路や電力回路で発生する過渡現象(サージやスパイク電圧、振動)を抑制するための保護回路です。基本は抵抗とコンデンサの直列回路で、
これを負荷・スイッチ素子の両端や巻線部の両端などに接続します。
下記に設計目的・回路特性に応じたスナバ回路の設計手順グループを一覧表で示します。
グループ名 | 対象回路例 | 特徴・動作 | 代表スナバ方式 | 計算の特徴 |
---|---|---|---|---|
A. スイッチング素子保護型 | MOSFET, IGBT, バック/フライバック一次側 | 高dv/dt、漏れLによるサージ | RC, RCD, クランプ回路 | 寄生インダクタンスとピーク電圧から定数設計 |
B. 誘導性負荷吸収型 | リレー, ソレノイド, モータ | 接点開放や電流遮断時の逆起電力 | ダイオード, RC, TVS | 負荷インダクタンスと電流に基づいて吸収エネルギー計算 |
C. リンギング抑制型 | バック二次側, ダイオード, LLC共振点 | 高速整流後にLCでリンギング発生 | RC | 寄生LCによる共振周波数からダンピング比を決定 |
D. トライアック誤動作防止型 | トライアック制御(照明・AC機器) | dv/dt誤動作のリスクあり | RC(スナバ) | 負荷のdv/dtに対して閾値を下回るよう設計 |
E. EMI対策型 | 全般(ACライン, DCDC) | 急峻な電圧変化・ノイズ放出 | RC, フェライトビーズ併用 | EMI伝導スペクトルの減衰を狙うため、経験則+測定前提 |
グループAとCは似ていて、「寄生LC」や「dv/dt抑制」を共通要素とします。
グループBは明確に異なり、「負荷側インダクタンスのエネルギー吸収」が設計基準です。
グループDはAC負荷や誘導負荷のトリガ保護がメインで、他グループと独立しています。
グループEは目的がノイズ規格対策(EMC準拠)のため、経験則や測定が重視されます。
今回の記事では上記用途のうちリレー・モータ・ソレノイドの誘導性負荷吸収用途での設計手順を記載します。
目的としては以下になります。
- 負荷インダクタンスがもつ逆起電力(サージ)からスイッチや接点を保護すること
- 接点アーク抑制(リレー寿命延長)
- 過渡電流の抑制(誤動作防止、EMI低減)
AC系負荷におけるCRスナバ設計手順
- 接点が開く瞬間、負荷側のインダクタンスが逆起電力を発生
- このサージ電圧をRCで吸収し、アークの発生を抑制
- Rがエネルギーを消費、Cがサージをバッファする
①負荷のインダクタンスLと電流Iを仮定または測定する。
インダクタの蓄積エネルギーE=\(\frac{1}{2}L\ I^2\)
- L [H]:負荷の等価インダクタンス
- I [A]:遮断時の電流(最大値)
例として負荷の等価インダクタンスL=100mH、遮断時電流値=0.3Aと仮定すると、
インダクタの蓄積エネルギーE=\(\frac{1}{2}・0.1・\ (0.3)^2\)=0.0045J=4.5mJ
➁コンデンサCの静電容量の決定
先ほど計算したエネルギーEを電圧上昇Vpで吸収するとして
E=\(\frac{1}{2}C\ Vp^2\)→C=\(\frac{L\ I^2}{\ Vp^2}\)
- Vp:スナバで許容するピーク電圧(通常、AC電源電圧の実効値 × 1.5~2倍 程度)
- Cは最小容量になるので、安全側で1.5~2倍して選定する
例として負荷の等価インダクタンスL=100mH、遮断時電流値=0.3A、想定ピーク電圧=250Vと仮定すると、
C=\(\frac{0.1\ (0.3)^2}{\ 250^2}\)≒144nF×1.5(安全率)≒220nF
➁コンデンサの定格電圧の決定
安全率を考慮して耐圧はAC電源電圧の2倍以上のものが推奨。100V負荷なら200V定格以上のものにする。
③抵抗値Rの選定
リンギングや過渡電圧を抑えるため、Rは臨界ダンピングに近い値が理想です。
この値に安全率(×1.5)で設計すると安全に吸収できます。
R=2\(\sqrt \frac{L}{C}\)
例として負荷の等価インダクタンスL=100mH、静電容量C=220nFと仮定すると、
R=2\(\sqrt{\frac{0.1}{220・\ 10^{-9}}}=2\sqrt{454545}≒2×674≒1348Ω×1.5(安全率)≒2.2KΩ\)
④抵抗の定格電力
スナバ抵抗は連続使用ではなく「瞬時放電用」なので、通常の平均電力ではなく「パルスエネルギー」に着目する必要があります。
項目 | 値 |
---|---|
C | 0.22 µF = 220×10⁻⁹ F |
R | 1.5 kΩ |
V | 250 V(AC100Vのピーク×1.8倍) |
🔹 エネルギー:

🔹 パルス時間:

🔹 最大瞬時電力:

🔹 平均電力(パルス中):

DC系負荷におけるCRスナバ設計手順
①制限したい最大電圧Vmaxを設定
この値はスイッチ素子(MOSFET、リレー)の耐圧を見て決定します。
➁静電容量Cの最小必要値を決定(スパイク吸収用)
これは「Vmaxまでしか電圧が上がらないように、RCで吸収する」ことを前提とした現実的で保守的な式です。
C=\(\frac{L・\ I^2}{\ Vmax^2}\)
例として通電時の負荷電流IL=0.5A、負荷の等価インダクタンスL=50mH、制限したい最大電圧Vmax=80Vの場合
C=\(\frac{0.05・\ 0.5^2}{\ 80^2}\)=\(\frac{0.125}{6400}\)≒1.95μF→市販値2.2μF
③コンデンサのDC耐圧を確認
DC耐圧が制限したい最大電圧より大きいことを確認する。
④抵抗Rの抵抗値を計算
R=k・\(\ sqrt{L}{C}\)
- k=1.0k = 1.0k=1.0:臨界ダンピング
- k=1.5k = 1.5k=1.5:ややオーバーダンピング(安定しやすい)
- 安全・安定動作を重視して「少し強めにダンピング(k>1.0)」が実用的
例として負荷の等価インダクタンスL=50mH、コンデンサの静電容量C=2.2μF、スケーリング係数k=1.5の場合、
R=R=1.5・\(\ sqrt{0.05}{2.2×\10^{-6}}=1.5・\sqrt{22727}≒1.5×150.7≒226Ω→市販値220Ω
⑤抵抗Rの定格電力の確認
項目 | 値 |
---|---|
C = | 0.22 µF |
R = | 330 Ω |
V = | 80 V(スナバに印加される最大電圧) |
スイッチ周期 | 1回/秒(T = 1s) |

⑥抵抗の定格電圧の確認
スナバに印加される最大電圧が抵抗の定格電圧以下であることを確認する。
高精度・高周波(MOSFETやインバータ)用途向け
低周波用途向け
