RCスナバ回路(誘導性負荷)の設計手順

エンジニアA君

先生…誘導性負荷に対するRCスナバ回路の設計は
どのようにするのでしょうか?

ろじペン

それでは設計手順を順に説明していくね!

目次

概要

RCスナバ回路は、主にスイッチング回路や電力回路で発生する過渡現象(サージやスパイク電圧、振動)を抑制するための保護回路です。基本は抵抗とコンデンサの直列回路で、
これを負荷・スイッチ素子の両端や巻線部の両端などに並列に接続します。

下記に設計目的・回路特性に応じたスナバ回路の設計手順グループを一覧表で示します。

グループ名対象回路例特徴・動作代表スナバ方式計算の特徴
A. スイッチング素子保護型MOSFET, IGBT, バック/フライバック一次側高dv/dt、漏れLによるサージRC, RCD, クランプ回路寄生インダクタンスとピーク電圧から定数設計
B. 誘導性負荷吸収型リレー, ソレノイド, モータ接点開放や電流遮断時の逆起電力ダイオード, RC, TVS負荷インダクタンスと電流に基づいて吸収エネルギー計算
C. リンギング抑制型バック二次側, ダイオード, LLC共振点高速整流後にLCでリンギング発生RC寄生LCによる共振周波数からダンピング比を決定
D. トライアック誤動作防止型トライアック制御(照明・AC機器)dv/dt誤動作のリスクありRC(スナバ)負荷のdv/dtに対して閾値を下回るよう設計
E. EMI対策型全般(ACライン, DCDC)急峻な電圧変化・ノイズ放出RC, フェライトビーズ併用EMI伝導スペクトルの減衰を狙うため、経験則+測定前提

グループAとCは似ていて、「寄生LC」や「dv/dt抑制」を共通要素とします。
グループBは明確に異なり、「負荷側インダクタンスのエネルギー吸収」が設計基準です。
グループDはAC負荷や誘導負荷のトリガ保護がメインで、他グループと独立しています。
グループEは目的がノイズ規格対策(EMC準拠)のため、経験則や測定が重視されます。

今回の記事では上記用途のうちACファンモータの『B.誘導性負荷吸収用途』での設計手順を記載します。
目的としては以下になります。

今回の目的
  • モータOFF時や接点切り替え時の負荷インダクタンスがもつ逆起電力(サージ)からスイッチや接点を保護すること
  • 接点アーク抑制(リレー寿命延長)
  • 過渡電流の抑制(誤動作防止、EMI低減)

AC系負荷におけるRCスナバの仕組み

RCスナバの仕組み
  • 接点が開く瞬間、負荷側のインダクタンスが逆起電力を発生
  • このサージ電圧をRCで吸収し、アークの発生を抑制
  • Rがエネルギーを消費、Cがサージをバッファする

設計手順1. 回路のパラメータ確認

ろじペン

まずはスナバ回路の計算に使用するパラメータについて確認しよう!
計算に使用するパラメータは以下になります。

パラメータ
AC電圧:Vac100V
許容サージ電圧:Vmax200V
消費電流:Iout0.5A
周波数:fsurge3MHz
ファンモータのコイルの漏れインダクタンス:Lleak5~50μH

①AC電圧の確認

AC電圧に関しては電源の仕様を確認しましょう。今回はAC100Vの電圧を使用してるファンモータを想定します。

②許容サージ電圧の確認

オシロスコープにてサージ電圧を確認し、許容サージ電圧は周辺部品に印加される最大の許容値を決定しましょう。今回は200Vとします。

③消費電流の確認

消費電流に関しては最大運転時の電流を測定もしくはモータ定格電流を想定します。今回はファンモータの定格電流である0.5Aを想定します。

④リンギング周波数の確認

サージのリンギング周波数をオシロスコープにて測定する。今回は3MHzとなる。

⑤ファンモータのコイルの漏れインダクタンスの確認

ファンモータのコイルインダクタンスを確認します。数百ns~数μsの高周波のサージではコイル全体に磁束が十分に回らないため、実際にサージに効くのは漏れインダクタンスのみになります。漏れインダクタンスは5μH~50μHの間で計算してみるといいでしょう。

設計手順2. コンデンサの必要容量計算

ろじペン

ファンモータコイルの漏れインダクタンスによって
蓄えられたエネルギーをコンデンサで受け止めるために、
エネルギー保存の法則からコンデンサに必要な静電容量を計算しよう!

まず、インダクタンスに蓄えられるエネルギーは下記式で表せられます。

インダクタンスに蓄えられるエネルギー
EL=12×Lleak×Iout2E_L=\frac{1}{2}×L_{leak}×Iout^2

次にコンデンサにこのエネルギーが移動した際に蓄えられるエネルギーを電圧上昇ΔVとして

コンデンサに蓄えられるエネルギー
EC=12×C×ΔV2E_C=\frac{1}{2}×C×ΔV^2

エネルギー保存則より、EL=ECのため、必要なコンデンサ容量は以下となる。ΔV=Vmax-Vacである

必要なコンデンサ容量
C=Lleak×Iout2ΔV2=Lleak×Iout2(VmaxVac)2C=\frac{L_{leak}×Iout^2}{ΔV^2}=\frac{L_{leak}×Iout^2}{(Vmax-Vac)^2}

今回の場合だと以下になる。E系列に存在するコンデンサを選定すると1.5nFとする。

C=Lleak×Iout2(VmaxVac)2=50μH×0.5A2(200V100V)2=1.25μFC=\frac{L_{leak}×Iout^2}{(Vmax-Vac)^2}=\frac{50μH×0.5A^2}{(200V-100V)^2}=1.25μF

設計手順3. スナバ抵抗値の計算

ろじペン

コンデンサの静電容量を求めたら次はスナバ抵抗値を計算しよう!

スナバ抵抗はファンモータのコイルの漏れインダクタンスとスナバコンデンサによるLC共振の振動を減衰させることが目的となります。減衰させる力は減衰係数ζで表され以下のようにζ=1になるように設計します。

減衰係数 (ζ)状態特徴
0無減衰リンギングが継続
0~1不足減衰リンギングあり
1臨界減衰振動せず最速で収束
>1過減衰振動しないが応答が遅い

RLCの値と減衰係数の関係式は以下のようになっており、

RLCの値と減衰係数の関係式
ζR2×CLζ=\frac{R}{2}×\sqrt{\frac{C}{L}}

これをζ=1の場合になるときのスナバ抵抗値Rを計算するため、

RLCの値と減衰係数の関係式
R2LCR=2\sqrt{\frac{L}{C}}

今回の場合だと以下になる。E系列に存在する抵抗を選定すると12kΩとなる。

R2LC250mH1.5nF=11.547kΩR=2\sqrt{\frac{L}{C}}=2\sqrt{\frac{50mH}{1.5nF}}=11.547kΩ

設計手順4. 部品の選定

ろじペン

コンデンサと抵抗の定数が決まったらいよいよ部品の選定に移ろう!

コンデンサの選定

項目確認内容
安全規格L-N間ならXクラスを検討
定格電圧AC定格電圧が実使用条件を満たすか
サージ耐量実際の電源サージ・スイッチングサージに耐えられるか
静電容量設計値±公差・経年変化を考慮
温度定格周囲温度+自己発熱が上限以下か
高周波特性ESR・ESL・自己共振周波数を確認
パルス耐量リレー開閉による過渡電流に耐えられるか
認証IEC 60384-14等、必要な安全認証を確認
寿命・環境高温・高湿度など使用環境を考慮

抵抗の選定

チェック項目確認内容設計上のポイント
抵抗値計算値を満たすか公差を含めて確認
定格電力定常損失に耐えられるか温度ディレーティングを考慮
パルス耐量リレー開閉時の過渡エネルギーに耐えられるか非常に重要
最大使用電圧抵抗両端の電圧に耐えられるか電力定格とは別に確認
抵抗公差Rのばらつきが許容範囲か±1%、±5%など
温度係数(TCR)温度による抵抗値変化高温時のR変化を確認
使用温度周囲温度+自己発熱ディレーティングを確認
抵抗構造高周波・パルスに適しているか無誘導性も確認
難燃性・安全性異常時の安全性必要な安全規格・部品仕様を確認

設計手順5. 実機確認

エンジニアA君

部品の選定も終わったし、
これでスナバ回路の設計は終わりですね!

ろじペン

まだ設計は終わっていないよ!
最後に実機確認で定数の調整をする必要があるんだ!

スナバコンデンサ静電容量の調整

最初に計算したCを基準に10nF→22nF→47nFのように容量を変えて評価します。一般的には静電容量Cが大きくなると高周波時のインピーダンスZc=12πfC\frac{1}{2πfC}が低下し、サージ電圧・リンギングを抑えやすくなります。
ただし、静電容量を大きくすると以下の部分に影響を及ぼすため、必要以上にCを大きくしないことが重要です。

静電容量Cを大きくすることによる悪影響
  • ACラインの漏れ電流増加
  • リレー投入時の過渡電流増加
  • コンデンサのサイズ・コスト増加

スナバ抵抗値の調整

コンデンサの静電容量をある程度決めることが出来たらコンデンサ同様に33Ω→47Ω→68Ωのように抵抗値を変えて評価します。

抵抗値を大きくしすぎたり、小さくしすぎたりすると以下の問題があるため、サージを十分抑制しながら、Rを必要以上に小さくしない値を探します。

抵抗値を小さくしすぎることによる悪影響
  • 過渡電流が増える
  • 抵抗のパルスストレスが増える
  • リレー接点への負担が増える
抵抗値を大きくしすぎることによる悪影響
  • 減衰が不足する
  • リンギングが残る

評価項目

実機評価をする際は下記の項目に着目して確認してみてください。

評価項目確認内容
最大サージ電圧設計上の許容値以下か
リンギング振幅十分に減衰しているか
リンギング時間長時間振動していないか
リレー接点電圧接点定格を超えていないか
リレー接点電流開閉時の過渡電流が過大でないか
抵抗温度異常発熱がないか
コンデンサ温度定格温度以下か
漏れ電流ACラインへの影響が許容範囲か
EMIノイズ試験結果が改善しているか
ファン動作風量・回転・異音に問題がないか

最終的な決定方法は以下のように表にするとわかりやすくなるでしょう。

CR最大サージリンギングR温度EMI判定
10 nF47 Ω○○ V×
22 nF47 Ω○○ V
22 nF68 Ω○○ V
22 nF100 Ω○○ Vやや大×
47 nF100 Ω○○ V×

まとめ

エンジニアA君

RCスナバ設計は、計算式だけで値を決めるのではなく、
理論計算を初期値として、実機波形と部品ストレスを確認しながら
最適値を決定する設計なんですね!良く分かりました!

ろじペン

この考え方を押さえておけばモータだけでなく、
リレー・ソレノイド・電磁弁など、さまざまな誘導性負荷の
サージ対策にも応用できるよ!

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